STEAM教育の歴史と各国の導入例

 前の記事(参照:STEAMってなに?)で簡単にSTEAMの歴史についてご紹介しましたが、ここでさらに詳しいSTEAM教育の歴史と導入例についてご紹介します。

目次

  1. STEAM教育の歴史
  2. 各国のSTEAM教育の導入事例と課題 
  3. 教育が進んでいない国の現状
  4. STEAM教育を受けた人材の活躍例
  5. STEAM教育のグローバルな視点とその影響力

① STEAM教育の歴史


 「STEM教育」という言葉は、アメリカ国立科学財団(NSF: National Science Foundation)を通じて広がりました。
 1990年代NSFは、科学技術分野の人材育成こそが国家競争力強化の要とし、教育カリキュラムや政策において「STEM」という用語を広め始めました。NSFは、この4分野に特化した教育を進めるため、STEM教育に関するプログラムや研究資金を提供し、州や教育機関との協力し進めていきました。

 「STEM教育」が広がるなか、アメリカ教育省や他の教育機関も「STEM」に注目し始めました。特に、科学技術分野での人材不足や国際競争力の課題が指摘される中、STEM教育は「次世代のスキル」を育むものとして注目され、全米でカリキュラム改革が進みました。その結果、「STEM」は国家規模でひろがり、教育現場や産業界でも広く認知されるようになりました。

② 各国のSTEAM教育の導入事例と課題

 アジア各国では、急速な技術発展と経済成長を背景に、STEAM教育が広がっています。しかし、導入にはいくつかの課題も存在します。

日本

導入例:日本でもSTEAM教育の重要性が認識され、文部科学省の政策の一環として推進されています。地方自治体や企業とも連携し、自分で課題を見つけ、その解決方法を試行錯誤しながら学ぶ「探究学習」や、実際の課題やプロジェクトを通じて学ぶ「プロジェクトベース学習」といったアプローチが徐々にひろまりつつあります。これらの学習方法は、知識の習得にとどまらず、実社会での課題解決力や創造力を養うことを目的としています。
 さらに、幼少期から通える私塾や学習プログラムも増えており、実践的な学習体験を提供する取り組みが進んでいます。こうした教育環境の充実により、子どもたちは早い段階から将来のキャリアに向けた基礎力を身につけ、変化する社会に適応できる柔軟なスキルを育むことが期待されています。

課題:日本では、大学受験などの伝統的な試験に対する重視が残っており、創造的クリエイティブで柔軟な学習に時間がさけないことが課題です。さらに、「教科書を重視した詰め込み型教育」が根強く残り、学校側が従来の学力重視のカリキュラムから抜け出せないため、STEAM教育の効果が限定的となっています。

台湾

導入例:台湾では、政府がSTEAM教育の推進を積極的に行っています。特に「情報通信技術」を活用したプログラムが普及しており、プログラミングやロボティクスに特化した教育が注目されています。政府は小中学校のカリキュラムにSTEAM教育を組み込み、ICT産業に貢献できる人材を育成しようとしています。

課題:都市部と地方での教育資源の格差や、教師の専門知識不足が教育効果の不安定さにつながっているとの指摘もあり、STEAM教育の普及と持続可能なカリキュラム開発が求められています。さらに、ICT技術の発展に偏ることで創造力やアートの視点が不足する問題もあります。

韓国

導入例:韓国では、教育部と科学技術情報通信部が連携し、STEAM教育を推進しています。韓国はICT分野の先進国であり、テクノロジーの活用を軸としたSTEAM教育が普及しています。全国の学校で、3Dプリンターやロボティクスといった技術を使ったプロジェクトが取り入れられています。

課題:韓国では学歴社会が根強く、受験の重圧からSTEAM教育が十分に浸透しないケースが多いです。また、教育現場でのリソース不足や地域間の格差も課題とされています。

 国ごとにそれぞれ課題はありますが、STEAM教育を通じた未来の創造はますます重要になっています。教育制度が発展する中、より多くの国がSTEAM教育に力を入れ、次世代のリーダーたちを育成することが期待されます。

③ 教育が進んでいない国の現状

 一方で、経済的理由やインフラの不足からSTEAM教育が十分に行き渡っていない国も多くあります。例えば、一部の発展途上国では基礎教育の整備が優先されるため、STEAM教育の導入が遅れています。

  • 課題:こうした国々では、設備の不足や教員の研修機会の欠如が問題となっています。加えて、インターネット環境が十分でない地域では、デジタル技術の習得に支障が出ています。
  • 解決に向けた取り組み:近年、国際機関や先進国の支援によって、オンラインリソースの提供や教材の寄付が行われています。例えば、アフリカでは、ICT教育を行うNGOによる支援が活発化しており、STEAM教育の基盤整備が進行中です。

参照:JICAによるSTEM教育分野の国際協力 

④ STEAM教育を受けた人材の活躍例

 STEAM教育を受け、育った人材はグローバルな場で幅広く活躍しています。

  • イノベーター: 多くのIT起業家やデザイナー、エンジニアは、STEAM教育を通じて得たスキルを活かして新しいビジネスや技術を生み出しています。例えば、AppleやGoogleで働くエンジニアやデザイナーの多くは、STEAM教育を受けた世代です。
  • アーティストと技術者の融合:
    STEAM教育は、テクノロジーとアートの融合を促進し、メディアアート(例:プロジェクションマッピング、デジタルアート展)やデジタル広告の分野で活躍する人材を育成しています。音楽や映像制作、さらにはVR(仮想現実)やAR(拡張現実)の分野でも、STEAM教育を受けた人たちがその知識を活かしてクリエイティブな表現方法を生み出しています。
    日本では「teamLab チームラボ」などはその代表例です。

⑤ STEAM教育のグローバルな視点とその影響力

 STEAM教育は、単に知識を得るだけではなく、世界的な課題解決をリードする力を育む教育として今注目されています。

  • STEAM教育を受けた人材は、気候変動やエネルギー問題といったグローバルな課題にも積極的に取り組んでいます。持続可能な社会の実現に向けた研究や、環境に配慮した製品開発にも力を注いでいます。
  • 多くの国がSTEAM教育を進める理由は、未来を担う国際競争力の高い人材を育成するためです。特に、テクノロジーが急速に発展する現代社会において、STEAM教育で培った経験が国際社会でのリーダーシップに繋がると考えられています。

次回STEAM教育における”Art”の役割について深く掘り下げていこうと思います。

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